財政破綻シナリオを考える

現代貨幣理論(MMT)を解説するにあたり

まずは、MMTに対してどのような批判があるか、順を追ってみていきましょう。

 

まず、「日本の借金問題」について、

先の記事(「現代貨幣理論を勉強する」)で紹介した通り、通説と前提が大きく異なる点について、具体的に説明しようと思います。

 

通説どおり、財政拡大の大小は、政府債務残高対GDP比で判断するべきだとすると、

下記の図表の通り、日本は主要国最悪の状態です。

 

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財政に関する資料 : 財務省

 

しかし、2009年秋のギリシャ財政問題から端を発した、ユーロ危機に代表されるギリシャやイタリアの政府債務残高対GDP比は、日本よりも低い。

なぜ、ギリシャやイタリアは失業率や国債金利などの上昇などが騒がれているのか。

 

ちなみに、日本の失業率は、2018年1月の雇用統計によると

完全失業率は2.4%、若年層失業率は3.3%であり、ほぼ完全雇用に近い状態となっている。

さらに国債金利は、マイナス金利と言われるほど低い。

本当に日本の国債が危機的状態なのであれば、金利は上がるはずであるが、過去最低を更新している。

 

なぜ、日本とギリシャ・イタリアは、同じ財政危機と言われているのにこのように状況が違うのだろうか。

 

MMTによれば、

自国通貨建ての国債を発行している国(日本、アメリカ、イギリスなど)が財政破綻する可能性はゼロである、という。

 

当たり前であるが、自国通貨建ての国債の償還を求められても、政府は自国通貨を発行できるから、財政破綻はしない。

これについて主流派経済学は、

「自国通貨建て国債を発行できる国は、無限に借金をしていいなど、暴論だ!」

と主張します。

 

しかしMMTは、無限に借金をしていい、などと言っていません。

MMTは、財政拡大(借金)ができる判断を決める指標を、政府債務残高対GDP比ではなく、インフレ率だと主張しているのです。

 

つまり、MMTに対する主流派経済学の批判は、的外れであり、MMTを単純に理解していないとすら思われるものが多いのです。

 

 

次に、主流派経済学が主張する財政破綻シナリオとして、

政府債務残高が、民間貯蓄残高を上回ったとき、一気に金利が暴騰して、財政破綻を起こすというものがあります。

 

しかしこれは、国債発行のプロセスを全く理解していない、非現実的な説です。

そもそも政府が国債発行で借りるお金は、銀行預金ではなく、日銀当座預金(日銀預け金)です。

 

日銀当座預金とは、日本政府、都市銀行地方銀行第二地銀協加盟行、外国銀行のみが保有することのできる、日本銀行中央銀行)に保有する当座預金です。一般企業や国民は日銀当座預金保有することはできません。

 

都市銀行地方銀行第二地銀協加盟行、外国銀行は、準備預金制度により定められた「預金総額×預金準備率」の金額分、日銀当座預金の残高を保有することが義務付けられています。



では、国債発行のプロセス見ていきましょう。

 

(1)銀行が国債を購入すると、銀行保有の日銀当座預金は、政府の日銀当座預金勘定に振り替えられる。※政府は国債を発行し、現金紙幣ではなく、日銀当座預金残高を「借りる」という話です。

(2) 政府は財政出動の際に、請負企業に政府小切手(日銀当座預金を担保に)で代金を支払う(個人が当座預金を担保に小切手を発行するのと同じプロセス)。※政府は日銀当座預金を担保に、「政府小切手」を発行するのです。

(3)企業は政府小切手を銀行に持ち込み、「政府からの取り立て」を要求する

(4)政府小切手を受け取った銀行は、相当する金額を企業の預金口座に記帳すると同時に、代金の取り立てを日銀に依頼する

※この時点で新たな民間預金が増え、マネーストック(現金及び預金)が拡大します。

(5)日銀は、「政府保有の日銀当座預金」の該当額を、「銀行保有の日銀当座預金」に振り替える

(6)銀行は、戻ってきた日銀当座預金で、再び国債を購入することができる

 

上記のプロセスから分かるように、政府が国債を発行する(政府債務残高を増やす)と、民間貯蓄残高は増えるのです。

つまり、銀行が民間から集めた預金を、政府が使っているのではありません。 

 

上記のプロセスは、経済学者、会計士、税理士ですら理解していない人が大半です。

その証拠に、政府は国債発行で国民の預金を借りているのか、それとも日銀当座預金を借りているのか。日本政府が国債を発行すると、家計の預金は減るのか、増えるのか。

 

身近にいる方に聞いてみて、

「国民の預金を借りて、家計の預金は減る!」

というひとが居たら、おそらく簿記の基本中の基本である、借方と貸方の意味を理解していないのでしょう。

 

評論家の佐藤健志氏は

実際我々が絶対の真理のごとくみなしているもののほとんどは、特定の認識枠組みの下で正しいだけの代物にすぎない。

この違いを理解できず、一定の条件の下でのみ正しいことを普遍的に正しいと思い込むことを賢いほどのバカはいない、というのです。

とおっしゃっており、まさに日本の借金問題を真の意味で理解していない人の多いこと…とあきれてしまいます。